小説“KAEROU(かげろう)”は、俳優・水嶋ヒロの処女作品。
作家活動をするにあたり、芸名の“水嶋ヒロ”ではなく本名の齋藤智裕(さいとう・ともひろ)を名義にしている。
水嶋ヒロは当時、映画『BECK(ベック)』の主演を務めるなど俳優活動はかなりの好調子だった。
その矢先に引退が発表されたためテレビや新聞などでも大きな話題を呼んだ。
本書を発表した際、本人は某テレビ番組の中で「職業は何ですか?」と聞かれ「表現者です。」と答えていた所から推測すると、生涯作家として活動するつもりはなさそうだ。
“KAEROU(かげろう)”は、第5回ポプラ社小説大賞を受賞。処女作にして大賞を受賞したことで、さらに話題となった。
賞金は2000万円だったが、本人は『多くの作品が生まれてほしい。賞金をそのために有効利用していただきたい。』という理由で受け取りを辞退している。
これらの一連の騒動は、ネット上で『ポプラ社の売名行為だ!』と囁かれた。
ちなみに、ポプラ社から発行されている作品の中には、上戸彩と竹野内豊が主演で話題となったフジテレビの月9ドラマ“流れ星”の小説版などがあるが、確かに“ポプラ社”という出版社はそれほど有名ではなく、これをきっかけにその存在を知った人も多い事だろう。
ポプラ社のHPによると“ポプラ社小説大賞”は新しい才能を支援するための文学賞で、“今後も創作活動に専念できる環境を才能ある作家に作ってもらうための投資”と考えているようだ。
にしても第1回の受賞作品“削除ボーイズ0326”から、その後2〜4回の大賞受賞作品がない所を見ると売名行為と叩かれても仕方がない。
これらの一連の騒動が結果的には大きな宣伝効果となり、発売日である2010年12月15日の発行部数は43万部、翌日には重版で累計68万部と発表された。さらに、発売からわずか2週間足らずで累計100万部を超え、ミリオンを達成している。(※注 これらの数字は発行部数で売上とは異なる)
さて、本書の内容についてだが、テーマは『命の価値』。
40歳のさえない中年男が人生に絶望し、飛び降り自殺をしようとするところから始まり、臓器売買の闇組織との出会いによって『命』について真剣に向き合う・・・という物語。
水嶋ヒロは、小学生時代スイスに住んでおり東洋人という事で人種差別を受けていた。さらに、帰国してからは日本語がうまくない事をバカにされるなどのいじめを受け自殺をも考えた事があるそうで、こういった自分の過去が小説の内容に影響しているようだ。
物語の所々に非現実的で強引な設定があるため心が離れそうになるが、過去にフジテレビ系列で放送されていた短編テレビドラマ『世にも奇妙な物語』だと思って読めば結構楽しく読めるはずだ。
いろんな意味で話題となった本書だけに、その記念として読んでみてはいかがだろうか。
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