「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら?
なんとも長ったらしい題名だ。加えて、マニアが好みそうな少女アニメ調の表紙。こんなのおもしろいのかねぇ。」
と思っている人は意外に多いのではないだろうか。実際、私もそうであった。
しかし、国内最大の出版販売会社として信頼のおける日販(にっぱん・正式名称:日本出版販売株式会社)の、ベストセラー週間総合ランキングで常に1位を独走し続けていた。
発売から1年近く本書が常に1位、オリコンチャートでも毎週5位以内、気が付けば180万部のベストセラーとなっている。
今どき、100万部を超える書籍はかなり珍しい。こうなると買わないわけにはいかない・・・
この小説の著者は岩崎夏海氏。AKB48のプロデュースで有名な秋元康氏に師事し、元々は放送作家として『とんねるずのみんさんのおかげです』や『ダウンタウンのごっつええ感じ』などのテレビ番組制作に携わっていた方。ちなみに夏海という名前だが男性だ。
夏海氏にとって、本書は処女作で、ベストセラーを受けて2011年3月からNHKでアニメ化が、さらに2011年6月公開予定で映画化が決定している。
小説の題名にも入っている“ドラッカー”とは、「現代経営学」あるいは「マネジメント」と呼ばれる概念を提唱したとされる社会学者ピーター・ファーディナンド・ドラッカーという人物のこと。“経営学の父”と呼ばれている。
「マネジメント」とは、直訳すると「経営」「管理」「処理」などといった意味だが、人や企業をいかに効率良く動かし成長(利益)に繋げるか・・・これを考える時に非常に大切な概念のひとつだ。
人間は、独りでは生きていけないゆえに“組織”が必要になる。
組織が必要な世の中で、人に自分の思いを伝える時、人に協力を頼む時、相手の資質や性格を理解した上でコミュニケーションを図る事は非常に大切なことだ。
ドラッカーの“マネジメント”はそれを理論的に、または心理的に説いた書物である。
この事を踏まえてもう一度小説の題名を読んでみよう。「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」
小説の内容は、読んで字のごとく高校野球部の女子マネージャーがドラッカーの書物を読んでマネジメントを実践したらどうなるか、というものだが、はて岩崎夏海氏はどうしてこのような小説を書こうと思ったのか・・・
夏海氏が、この小説を書くきっかけとなったドラッカーの書物“マネジメント”が物語にも登場する。
夏海氏は、この“マネジメント”を読んで涙を流すほどの感動を覚えたらしい。
「“人間”とは、また“社会”とは何であるかを知る上で、とても重要だと思われるいくつかの事柄がそこに書かれていた」と夏海氏は本書のあとがきで語っている。凄く共感できるメッセージだった。
本書に出てくる野球部こそ“成長する企業”として理想の姿だと感じたからだ。
ひとつの目標を立て、そこに向かって全員がそれぞれの能力やスキルを活かしながら、前に進む。
目標がしっかりと定まっていれば、仲間同士の深い絆も生まれる。理想の企業のシステムだ。
また本書がすばらしいのは、取っつきにくい経営学の書物を、誰でも楽しんで読めるように噛み砕いて紹介している事。
マネジメントをわかり易く紐解きながらも、涙を誘うストーリー性を持たせている。
この小説は、“日本”という組織の中に生きている全ての人に是非読んでもらいたいと願う。(記事:2010年12月14日)
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